昔いた情けない人間の話
恐怖に突き動かされる人生というのは、情けないものです。
昔コンビニでバイトをしていたころ、とてもまじめな人がいました。
一緒にシフトに入っている人が少しでも気を抜いたり、仕事に不備があると、鬼の首を取ったように注意し、店長に報告を入れます。
最初は、まじめなひとなのだと思いました。
しかし、よくよく考えてみるとそうではないのです。
その人の年齢は40に近いです。
もし、その人が人生そのものに対して、バイトと同じくらい真剣に向き合っていたらどうなっていたでしょうか。
そうであったなら、コンビニでバイトなどはしていないでしょう。
つまり、その人はまじめなわけではないのです。
バイトを首になるのを恐れているから、まじめに働いているフリをしているだけなのです。
誰にでもできる、コンビニのバイト。
その程度の仕事に必死にすがることでしか、その人は自分の生活を維持することはできないのです。
もうそれ以外に生きるための術が無いのです。
その人は別にまじめではありません。
今まで戦うべきところで戦ってこなかったから、今の惨状があるのです。
逃げ続けて来て、その結果どうにもならなくなったのです。
コンビニのバイトにすがることでしか、自分の人生を支えきれないのです。
逃げて逃げて、もう逃げられなくなって。
そして自分の生活が立ち行かなくなる恐怖に耐えかねて、その人はついにまじめの皮をかぶることにしたのです。
恐怖に突き動かされて、生きていくだけの人生。
何と情けないのでしょうか。
バイトから得られるものはありません。
時間を切り売りするにしても、安すぎます。
しかし、こうした人間の最底辺を見ることができたのは、得難い経験だと感じます。
「あのようになってはいけない」
そういう風に思えることができたのは、大きな財産です。
人間は結局どこかで戦わないといけません。
戦いの形は様々ですが、それから逃げ続けることなどできないのです。
逃げて逃げて、結局逃げ切れず、みじめな人生を生きる…
そして、情けない最期を遂げ、「自分の人生はいったい何だったのか」と嘆く。
そんなことになるくらいなら、腹をくくって戦うべきなのです。
あのような情けない人間にだけは絶対になってはいけません。