講談社によるAmazonへの抗議。KindleUnlimitedでの電子書籍配信の無断停止騒動について。
<講談社>作家ら説得の作業を無にしたアマゾンへの怒り
アマゾン読み放題、講談社などの全タイトル消える
AmazonがKindle Unlimitedから講談社の作品を無断で除外したとして問題になっています。
今回は、この騒動について見ていきたいと思います。
目次
今回の騒動の経緯
Amazonが提供する電子書籍読み放題サービスKindle Unlimitedにて、講談社の作品1200点余りが無断で配信停止となった。
講談社はそのことに対し、Amazon社に対し、抗議を行う。
抗議の内容は聞き入れられず、さらにその間にも読み放題対象作品から同社の作品が除外されている。
現在(当記事執筆時点:2016/10/10)もその状況は変わらない。
なぜAmazonは配信停止を行ったのか
では、なぜAmazonはこのようなことを行ったのでしょうか。
それを理解するためには、Kindle Unlimitedサービスの料金体系を理解する必要があります。
Kindle Unlimitedサービスとは?
Kindle Unlimitedとは、Amazonが提供する電子書籍読み放題サービスのことです。
このサービスに加入すると、月額980円で対象の作品が読み放題になるのです。
ユーザーとしては、読めば読むほどお得になるということです。
上記は、消費者からみたKindle Unlimitedサービスの料金体系です。
今度は出版社から見たKindle Unlimitedサービスを見ていきます。
出版社はAmzonとKindle Unlimitedサービスの契約を行います。
すると、出版社が提供したコンテンツが読み放題対象となります。
そして、その作品が一定ページ数以上読まると、出版社に対して料金が発生します。
・年末までは本が読まれた場合、普通に売った時と同じ料金をAmazonが出版社に支払う契約になっていた
・通常、Kindle Unlimitedでは読まれたページ数に応じて利益が支払われるが、出版社向けの契約では、全体の10%が読まれたら1冊読んだことにするとしていた
つまり、出版社は読まれれば読まれるほど、お得というわけです。
反対にAmazonは、発生した料金が契約料金を上回ると赤字になるというわけです。
Amazonが無断配信停止を行った理由
Kindle Unlimitedサービスは、その作品が読まれれば読まれるほど出版社にお金が入ります。
逆に言えば、Amzonの出費が増えていくということです。
もともと、Kindle Unlimitedサービスは、集客や販促効果を狙ってのものでしょう。
読み放題というエサをまいて、別のところで利益を上げるということです。
しかし、今回はその採算が合わなくなったのでしょう。
つまり、Kindle Unlimitedサービスの提供にかかるコスト(講談社に支払う利用料)と、それによる販促効果の収支が取れなくなったということです。
だから、講談社の作品の提供を停止したということになります。
なぜ利用料が想定外となってしまったのか
では、なぜAmazonがこのような利用料の発生を予期できなかったのか。
それは、日本市場の独自性にあるようです。
日本は、海外でも有名な漫画大国です。
そのため、国民の間でも漫画の購読量が多いです。
それに加え、漫画は普通の本と比べ、読むスピードが速くなります。
つまり、日本市場の独自性によって、出版社に支払う利用料が予想以上に膨らんでしまったのです。
今回の騒動では、漫画、雑誌、写真集など、普通の本と比べて読み進めるスピードの高いものが、配信停止されています。
そのことからも、上記の説が一定の真実味を帯びていることがわかります。
参考「5カ月分の予算が最初の1週間で消えた」―― 出版社社員が明かす「Kindle Unlimited」大混乱の理由
補足
今回の報道では「無断」というワードがよく使われています。
ただ、ここに関しても複雑な事情があります。
というのも、Amazon側は一度講談社に契約内容の変更を打診しているようです。
ただ、それに対して講談社側は応じませんでした。
そのため、Amazonがコンテンツの配信を停止したという経緯があります。
つまり、停止の前に一度交渉はしたが、それが決裂した後、配信を「無断」で停止しているのです。
完全に何の通告もなく配信を停止した、というのとは微妙にニュアンスが変わってきます。
講談社が抗議を行う理由
今回の無断配信停止は契約内容に違反しているのか
これまでの流れを見ていると、講談社が抗議を行う理由は明確なように思えます。
それは、Amazon側が無断にコンテンツの配信を停止したからです。
しかし、ここで一つの問題点があります。
それは、「果たしてそれが契約上問題があるのか」という点です。
現在、わかっている情報はAmazonが無断で配信を停止したという点のみです。
契約の内容や、無断に配信を停止するのが契約に違反しているのかということについては言及されていません。
ですので、今回の抗議が契約上の問題によって行われたのか、感情的な問題によって行われたのかは、不明です。
法的に訴訟するのは難しいのでは
仮に今回の問題が契約上の問題だったとしても、Amazonを法的に訴えるという手段はとりづらいです。
なぜなら、それによってAmazonとの関係が悪化し、今後の取引がなくなる可能性が出てくるからです。
Amazonはもはや一企業としてではなく、電子書籍配信のプラットフォームとしての立ち位置を確立しています。
Amazonの電子書籍配信というプラトフォームに乗ることで、自社のコンテンツを販売し、収益を上げることができるのです。
もちろん別のプラットフォームや、自社でプラットフォームを作ることは可能です。
しかし、それでは届けれられる消費者が限られてしまいます。
Amazonにあるから買うとう消費者もいますし、ある1社のコンテンツを買うために、その会社の運営するサービスにわざわざ加入するのは手間です。
「だったら、面倒だからそのコンテンツを諦めよう」となる消費者も一定するいるはずです。
このようにAmazonという大きなプラットフォームに乗れないことによって、大きな機会損失が発生してしまうのです。
そう考えると、一時の利益を得るために、Amazonとの関係を悪化させるのは得策ではありません。
よって、そのような行動に出ることは考えにくいのでは、と思われます。
では、なぜ抗議をするのか
Amazonに要求を通すのが目的でないとしたら、なぜ講談社は抗議をするのでしょうか。
それは、ユーザーに対する釈明である可能性が高いです。
Amazonに抗議という形をとることで、間接的にユーザーに対し、「配信が停止されたのは講談社の意思ではない」ということを言っているのではないでしょうか。
これ出版社が次々と Amazon に抗議する流れになってるけど、Amazon がそれで耳を貸すとは思っていないだろうなあ。著者とユーザーに対するメッセージ。「ウチの意思で消したんじゃないよ」っての伝えたいのだと思う。
— 鷹野凌 (@ryou_takano) 2016年10月4日
ユーザー(Kindle Unlimited会員)への損害について
今回の騒動は講談社が被害者というイメージが強いですが、当然一般消費者も被害者です。
無料だと思っていた作品が、突然対象から外されたわけですからね。
もし、その作品を目当てにKindle Unlimitedに加入した場合、それは確実な損害となります。
しかし、Kindle Unlimitedサービスにおいては以下のような取り決めがなされています。
お客様は、Kindle Unlimited の会員として、本プログラムの会員である限り、Kindle 本を指定されたタイトルリストから選び、何度でも読むことができます。当サイトでは、随時本プログラムにタイトルを追加し又はプログラムからタイトルを削除することがあり、また当サイトは特定のタイトルの利用や利用できる最小限のタイトル数を保証するものではありません。
引用:Kindle Unlimited 利用規約より
つまり、「今現在読み放題対象となっているものが、ずっとそのままであることは保証しないし、急に対象から削除されることも可能性として十分ある」ということを言っているのです。
そして、それを了承したうえでサービスの提供をおこないます、というスタンスなのです。
なので、そのサービス契約を結んでいる以上、我々一般消費者は何も言うことができないのです。
ユーザーを大切にしていない、という意見もあるかと思いますが、Amazonも営利企業としてやっている以上、無条件でユーザーを大事にする義務はありません。
もともとKindle Unlimitedは、それによって収益を上げるというよりは、販促としての側面が強いです。
Amazon側も、今回の決定でどれくらいの不利益が出るかは試算しているはずです。
その上で、読み放題で漫画を読む層を大事にする必要はない、という判断だったのでしょう。
今後どうなるのか
今回の騒動では、プラットフォーム提供者がいかに強いかというのかを思い知らされました。
ルールを作る側であるAmazonに対して、コンテンツ供給者は強く出ることができません。
なぜなら、Amazonのプラットフォームに乗れないことは、コンテンツを供給できない事とイコールになるからです。
今後も同様の事件は起きてくるでしょう。
そうなった時にコンテンツの供給者は、どうやって自分の身を守るかを考えていかないといけないかもしれません。